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【5】女神の優しさと意地悪

 【4】では『カイの冒険』の、それまでにない設定などの違いを書いた。
 では、肝心のゲームはどのようなものなのか。
 自分がこれを手にすることが出来たのは、発売から約2年後になるのだが、それでもその感覚は鮮烈であり、今までに経験したことのないものだった。

 やはりその最たる特徴は、“慣性”にあるだろう。
 普通に走るにしても、出足はやや鈍く加速度が付き、止まろうにもボタンから手を離しただけでは、すぐには止まらない。
 ジャンプもまた特殊で、Aボタンを押し続ける間はエレベーターのように等速で上昇し、Aボタンを放しても徐々に減速してから止まり、そこからまた等速でゆっくり降り続ける形だ。
 設定上にある「勇気を身軽さに変えるティアラ」とは、ここまで厄介な代物なのかと思ってしまう。そのくらい操作はデリケートで、思い切りの良さと精度の両方が要求されるのだ。

 のちに遠藤氏より語られたところによると、海外の『メジャーハボック』(1983年・アタリ)のサイドビューアクション面をもとに作られたという(エンディングにもスペシャルサンクスに「アタリ『メジャーハボック』開発チーム」と記載)。だが、さすがに当時そのゲームを知る人はかなり少なかったハズ。自分も残念ながら、実際にそのゲームを見たことすらない。
 今となっては、『ドルアーガの塔』のプレ・ストーリーとしての存在意義もさることながら、そんな個性的かつ知られざるゲームを、ファミコンという大きなステージで広めたことに歴史的な意義があったと言えるだろう。

 さて、その発売から約2年後に手に入れた『カイの冒険』。
 60階までクリアするのは、ゲーマーと呼べる人間ならさほど難しくはないと思う。実際、自分も「敵に接触してミスした場合、その敵は消える」というルールにも助けられ、何度となくエンディングは見たことがある。
 エンディングは遠藤氏曰く、「史上初のバッドエンドしかないゲーム」とのことであったが(その後ギルが助けに行く必要があるため)、重厚な音楽と合わせてこのエンディングも好きであった。FC版『ドルアーガの塔』の頃と比べ、グラフィックから“ポーズ時に流れるクレジット音”まで見違えるほど完成度が高くなっており、4年という月日がもたらした進化を実感させてくれる。

 だが、60階までならそんなことを楽しみながらプレイも出来るが、“スペシャルステージ”と銘打たれた61階以降はそうもいかない。
 エンディングを見せたあとのオマケとあってか、難易度も格段に向上し、情け容赦ない構成の面が押し寄せる。「風が吹き、空中にいる間は横方向に流される」といった60階までになかった要素もあるわ、いやらしい動きの新しい敵も多数登場するわ。まるで60階までは練習で、61階以降が本番であるかのような凄まじさだ。
 おまけに、60階までは途中でワープをすることによりルートの短縮が可能だが、スペシャルステージでは短縮どころか下の階に戻される“逆ワープ”しか存在しない。100階までの全40面を、噛みしめながら地道に登っていくしか道はない。

 60階までは頑張れば道は開けるし、ワープでショートカットも出来る。その果てにエンディングを見ることが出来る。しかし、61階以降は先程までの優しい顔はどこへやら。同じゲームでも、こんな二面性を持った作品も珍しいのではないだろうか。
 また、前2作『ドルアーガの塔』と『イシターの復活』は、宝箱の出し方やルートなど予習が必要不可欠なゲームであった。しかし、この作品は“隠し要素”的なものがほとんどなく、手の届く範囲で努力すれば先に進めるゲームであった。この敷居の低さは、特筆すべきだろう。
 今までのシリーズ作品にない優しさと、その奥にある意地悪。その絶妙なバランス、また丁寧な作りとコンセプトの明確さからも、このゲームは今もって“傑作”と、自信を持って言える。

 余談だが、ある日「電源を入れっぱなしにして全面クリアに挑戦しよう!」と思い立ったことがある。
 このゲーム、コンティニューは無限に出来るが、パスワードなどによるデータ保存はない。そのため、全面クリアを目指すのならその間ファミコンの電源を切ってはいけないわけだ。
 かくして、夜がんばる→電源を入れたままテレビだけ消して寝る→朝学校に行く→学校が終わったらがんばる→…という生活を、3日ほど続けた。
 …が、しかし、とある面でうっかり前述の“逆ワープ”を取ってしまう。
 “逆ワープ”は、宝箱を開けてから数秒後に効果が発動するので、その間にミスをするか、逆ワープ完了前にファミコン本体のリセットボタンを押せば、未然でその効果が防げる。だが、3日間もファミコンの電源を入れっぱなしにし、ひたすらコンティニューを続けていると、何故だかリセットボタンを押すことにものすごい抵抗を感じるのだ。
 効果発動前にミスしようとするも、あの特徴的なカイの動きではそれもままならず、リセットボタンを押せばいいのに、なぜか手が動かない。

 かくして、3日間の苦労も水の泡となり、無念の思いでファミコンの電源を切った。
 それ以来、全面クリアを志したことは、一度もない。

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