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【18】真夏の一夜の夢

 1990年8月25日。
 東京、日本青年館。

 GAME MUSIC FESTIVAL'90。
 ついに、この日がやってきた。

 S.S.TBANDひさびさの、そして新ベーシスト・TURBO君加入後初のライブ。
 ZUNTATA、記念すべき最初のライブ。
 バンドとして脂が乗りつつある時期のS.S.T.BANDと、全くの未知なるパフォーマー・ZUNTATA。その夢の競演が、いよいよ幕を開けるというのだ。
 開催日が夏休み期間中(実際には地方では夏休みが明けた地域もあるが)および土曜日ということもあり、最もコアなファン層である10代の学生にとっては、願ってもないチャンス。この時、自分は行けなかったのだが、恐らく関東近郊のみならず全国からゲームミュージック・ファンが集ったことだろう。

 日も暮れかけた頃、その幕は上がった。

【ZUNTATA Act】
 ライブが幕を開けたと同時に、重々しい男たちの声が朗々と響く。
 そして現れた少年の、一言。
  「ボクの名は、夢男!」
 なんと、出てきたのはZUNTATAではなかった。ステージは劇団(PPP'S WORKSHOP)による演劇からスタートする。その内容は、新たなる神となることを運命づけられた少年・夢男の物語。
 謎の男から手渡された“予言の書”。夢男がそれを開いてみても、何も書かれていない。しかし、耳を澄ませてみると、人々の声が聞こえるという――
 そこに流れ始めたのは、「A.D.1993」。『ニンジャウォーリアーズ』のデモで流れる曲が、重苦しく響く。
 そして満を持して、ZUNTATAが登場。聴き慣れた「OLGA BREEZE」の快活なメロディに、オーディエンスは一気にヒートアップした。
 バンドとしてのZUNTATAは、なんとホーンセクションまで入った13人編成。全員がおそろいの銀色のジャケットに身を包んでいる。
 もちろん、キーボードのOGR、ギターのMar.など、ZUNTATAを代表する作曲者達が目の前で楽器を弾いている。自らの手で、何度となく聴いたあの曲を演奏している。長い間待たされて、ついに実現した瞬間。まさに夢が現在進行形で叶っている至福の時間だ。

 ZUNTATAのステージは、劇団の演劇を合間に挟みつつ、代表曲を演奏するという形。
 しかし、単なるライブにとどまらない点として、それぞれの楽曲にテーマを持たせている点が挙げられる。“淘汰”の「Ja Fraw」、“平和”の「FREE THE LOVE」、“滅亡”の「CHAOS ~Main Theme~」など、ひとつの物語に沿って演劇と演奏が進んでいく。さらにはストーリーの展開のために、ゲームミュージックのアレンジではない「MECHANIQUE CIVILLISATION」という完全オリジナルの曲まで書き下ろしているのだ。
 代表曲を並べたライブのシーケンスとしても優れ、同時にひとつのストーリーを追った劇伴としても優れた構成は、ZUNTATAのコンセプチュアルな側面を存分に発揮した高い完成度を誇っていた。
 また「FREE THE LOVE」では、CDでもボーカルを務めたSUZANNE K.が実際にステージで歌い、「CHAOS~Main Theme~」では大本営発表のアナウンスを混ぜるという、まさにカオティックなアレンジを施す。
 最後はストーリーの結末として、神になるという運命に背を向けた夢男に“革命”というテーマを持たせ、さらに2年前のアルバムで“来たるべき未来”のライブに夢を託した楽曲としてファンには思い出深い、「DADDY MULK」を選ぶ。記念すべきファーストライブの締めくくりとして、また物語の結末として、これほど完璧な答えはないだろう。津軽三味線ソロには実際に三味線奏者がステージに登場、これもまた仮想ライブバージョンを再現したものだ。

 駆け抜けるように過ぎていった時間。
 「DADDY MULK」が終わったあと、2年前の仮想ライブと同じように場内を包み込んだ「ZUNTA」コールが、ファンのみならずZUNTATAにとっても夢心地に感じられたに違いない。
 1988年に思い描いていた夢が、今ここに叶ったのだ。

【S.S.T.BAND Act】
 高いコンセプト・ライブを見せつけたZUNTATAに対し、S.S.T.BANDが用意する答えはただひとつ。
 純粋に、バンドとしてクオリティの高いライブを行う。
 そして、それはファンもまた望んでいたことである。各種イベントでS.S.T.BANDがライブを行うたび、当時サイトロンにはライブアルバムの希望が寄せられていたとのこと。ファンが渇望していたS.S.T.BANDのライブが、ついに日本青年館という大会場で、多数のオーディエンスに向けて解放されるのだ。

 ミリタリー風の黒いコスチュームに身を包み、もはやお馴染みとなったサングラス姿でS.S.T.BANDは登場。ライブは「AFTER BURNER MEDLEY」で幕を開ける。
 事前に合宿までしたこともあり(その詳細はライブアルバムに詳しい)、さすがにそのステージングの完成度は高い。バンドとしての技術やまとまり、放射するエネルギーの熱では、ZUNTATAをも凌ぐものがある。
 前月に発売されたばかりの4thアルバム『HYPER DRIVE』より、「AIR BATTLE」や「新たなる旅へ」を演奏したかと思えば、バンド形式では初演奏の曲が並んだ「GALAXY FORCE MEDLEY」、さらにライブはおろかアレンジ自体が初となる「LAST WAVE」(『アウトラン』のネームエントリー曲)など、代表曲を惜しげもなく弾きまくる。まさにS.S.T.BANDとしての集大成と呼ぶべき、新旧取り混ぜたセットリストとなった。

 なかでも、注目すべきはそのフロントマン。
 ステージのど真ん中に立っていたのは、リーダーのMickeyでも、華のあるギタリスト・GALAXYでもない。新加入したベーシスト、TURBO君その人だった。1曲目からベースソロをかますなど、そのスラップベースで観客にビートを刻み込む。
 そして、あの有名なアジテーション。
  「ターボくんのベースをもっと聴きたいかぁー!!」
 ベースを手に、観客を煽る。これこそが、今回フロントマンとしてステージ中央に立つこととなった理由なのではないだろうか。
 前回(【17】GMF'90という名の“革命”前夜参照)書いたように、ゲームミュージックのファンにはゲームミュージック以外の音楽を聴いたこともなく、コンサートにも行ったこともないという人が多かった。それもあって、いわゆるライブでの立ち振る舞いに慣れていない者が多く、ともすれば“大人しい”“行儀のいい”観客でしかなくなってしまう。それを打ち破るかのようなTURBO君のアジテーションは、ある意味カルチャーショックであり、いわば“洗礼”であった。
 同時に、それはバンドにとっても新たなる刺激となったに違いない。ライブCD(後述)においても、ライナーノーツに「彼のプレイ、人間性が大きくバンドの活性化につながっていることは言うまでもない」とまで、他メンバー(恐らくMickey)に言わしめているほどである。邪推でしかないが、それまでゲームミュージックの作曲家とスタジオミュージシャンによるプロジェクトに過ぎなかったS.S.T.BANDが、彼の加入により本当の意味でバンドとして結束を固めたのかもしれない。

 最後は1曲目のメドレーには入っていなかった「AFTER BURNER」、そしてアンコールにて「POWER DRIFT MEDLEY」を演奏し、ライブは終了。ZUNTATAの時と同じく、「S.S.T.」コールが沸き上がり、場内を包み込む。
 真夏の一夜の夢は、一時も留まることのないまま、あっという間に過ぎ去っていった。
 跡に残るほのかな熱気と、強烈に刻み込まれた記憶だけが、その夢が本当だったことを物語る証だった。

【後日】
 その後のサイトロンの動きは素早かった。
 初のライブアルバムとなる『S.S.T.BAND LIVE -G.S.M.SEGA-/S.S.T.BAND』を10月21日に、『ZUNTATA LIVE -G.S.M.TAITO-/ZUNTATA』を11月21日に、それぞれ発売。さらに、ライブビデオ『GAME MUSIC FESTIVAL'90』『S.S.T.BAND LIVE』を11月21日に同時発売した。ビデオは前者がZUNTATAとS.S.T.BANDの両方の映像を収録、後者は文字通りS.S.T.BANDのステージのみで構成されている。
 地方在住などで行くことのできなかった多数のファンに、これらは大変な喜びを持って迎えられた。それがさらに深い渇望を呼び起こし、更なるライブ展開を望む声に繋がったことは、想像に難くない。また、「GAME MUSIC FESTIVAL'90」ということは「'91」もあるはずだ、という強い希望が、さらにゲームミュージック界の勢いを押し広げていくこととなる。

 1990年8月25日。
 その日は、ゲームミュージックにとって大きな里程標が打ち立てられた日である。

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